昔々、鑓水のある農家に、舌を出すのも、柿の皮をやるのもいやだという大層けちなお婆さんが住んでいました。
余りけちんぼなので村中が愛想をつかして、誰一人この家を訪れる人もありませんでした。
お婆さんにすると誰も来ない方が良かったのでした。
ある日のこと、お婆さんは庭先で大きな里芋の皮をむいていました。
ちょうどそこを通りかかった旅のお坊さんは、余りに立派なその里芋を見て「大層珍しい美味そうな里芋じゃ、ひとつ譲って下さらんか」といいました。
するとお婆さんは、どうせ坊さんだからただでやらねばならんと思い、「この里芋は柔らかく美味そうに見えるが、固くて食べられませんよ」とやるのが惜しいものだから、こんな言い訳をいってひとつもお坊さんにやりませんでした。
余りにけちん坊な情け知らずのお婆さんだったので、この曲がった根性を直すため、ひとつこらしめてやろうと思い、旅のお坊さんは「フッ」と法力をかけて本当に石のように固い里芋にしてしまいました。
そして「お婆さん、もうその里芋は固くて食べられませんよ」と旅のお坊さんはいいました。
「なんのそんなことがあるもんか、この里芋は柔らかいのだから」と前とは反対のことをいいました。
しかし、不安になってきて、里芋の皮をむきながら、そっと鎌で里芋を切ってみました。
すると自分がいったとおりの柔らかい里芋ではなくなり、お坊さんがいったように里芋は石のように固く、鎌の刃がこぼれてしまいました。
驚きあわてたお婆さんは、里芋を急いで洗って煮てみましたが柔らかくなりませんでした。
今度は火をおこして焼いてみました。しかし、相変わらず石のように固く食べられませんでした。
気違いのようになったけちん坊のお婆さんは「今にきっと柔らかくなる」と、捨てるのが惜しいものだから、柔らかくならないその石のような里芋を諦めようとしませんでした。
旅のお坊さんはお婆さんのしていることをじっと見ておりましたが、やがて悲しそうな顔をして、その場を立ち去って行きました。
お坊さんの去った後もお婆さんはまだ諦めずに、里芋を柔らかくしようと夢中になって煮たり焼いたりしていたということです。